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 十二時近くなった。理来はカウンターに出て店内の様子を目に焼き付ける。照明が暗くなって青や赤色の光が店内を浮遊した。それにミラーボールの光が暗い店内にくるくると回る。 「今日はご来店まことにありがとうございました」  ウエイターが言う。理来は片づけをするために厨房へ入った。洗い物は順次やっているから、最後の皿を洗うだけだ。  お客さんたちは帰ったようだ。マリアがひょっこりと顔を出す。 「駐車場で待ち合わせでいい?」 「うん、ゆっくり着替えておいでよ」 「りょーかーい。ねえ、ファミレスじゃなくてラブホテルに行かない?」  ラブホテルか。その方が他人(ひと)に会話を聞かれなくて済む。理来はウンと頷いた。 「ラブホテルでもいいよ。二十分くらいしたら洗い物が終わると思う。もう夜は寒くなって来たし危ないから三十分くらいしてからおいで」 「花束はどうする?」  そうだった。あれを車に詰め込まなくてはいけない。 「何往復かするよ。マリアは運ばなくていい」  理来は口角をあげた。マリアもにっこりとする。  最後の仕事を済ませて黒いエプロンを取った。ワイシャツとスラックスの姿になる。理来はエプロンを畳んでバッグに入れると、厨房を出た。ウエイターがモップで灰色の床を掃除していた。掃除は閉店後にやる決まりだ。 「あ、理来くん、花束を運ぶの手伝いますよ」 「そう?悪いな」  万が一マリアと鉢合わせるかもしれないが既にバレているし今日で辞めるのだからコソコソする必要はない。
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