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 一時間くらい山をドライブする。平日だから車は少ない。マリアは始終(しじゅう)楽しそうにしていた。理来は彼女とドライブなんて初めてだ。大学生の時の彼女とはドライブはしていない。大学を卒業する年に免許を取ったからだ。免許が取れたときには彼女とは別れていた。ドライブを始めてしたのがニューハーフだなんて両親が生きていたら怒りそうだけど、もし生きていてもマリアと付き合っただろう。理来は本気で愛している。  帰り道、国道に出るとコンビニに寄った。レジのところに肉まんのケースがあっておでんの匂いがぷんとした。理来とマリアは温かい缶コーヒーを買う。理来はブラック、マリアは微糖を買った。  約束の懐石料理の店は『シリウス』から車で十分くらいの場所だ。少し早めに着いたので車で時間になるのを待つ。マリアが理来の首に手を回してキスをした。 「ちょっ、こんなところでダメだよ」 「大丈夫だよ。誰も居ない」  理来はバックミラーで唇を見る。口紅は付いていない。 「ねえ、三田島さんには私たちが付き合ってること話したの。応援してくれるって言ってた。その上で援助をしてくれるなんて不思議じゃない?」 「マリアが魅力的だから店が絶対、流行ると思ってるんじゃないか?売上金の一部が欲しいって言うかもな」 「そうだよねー、でも店を出すお金は理来くんあるんでしょ。売上金を渡していいの?」 「経営なんて知らないし、僕は歳が若いからバッグに誰か付いてくれたほうが安心なんだ」  マリアはウンウンと聞く。雑談をしていると七時になった。懐石料理屋さんの藍色の暖簾をくぐる。 「三田島という名前で予約していたんですが」 「ああ、お座敷を用意してあります」  店の奥に案内される。襖を開けると六人くらいが座れる畳の座敷席に紺色の座布団が置かれている。
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