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「エルナ、ごめんなさい、……ごめんなさい」
エルナはふわりと飛んでハラを抱きしめる。その姿はすぐに風に溶けて消えた。完全に消えたのではない。王の所へと飛んで行ったのだ。
今はエルナに助けを請うことしかできない。そんな自分が情けなく、ハラはエルナと王の無事を祈りながら必死に自分にできることを考えた。
それからすぐに、馬を駆ってトロイがやってきた。
「ハラ、大丈夫か」
馬から飛び降りるように駆け寄ってくる姿に、ハラは頬を拭って前を向いた。
「どうもない。王都の様子は?」
「兵士たちにマナ石の回収を命じてはいるが、かなり広範囲に及んでいる。まだ時間がかかりそうだ」
「急いでくれ。王はゴーゼにいる。トロイは王の所へ。わたしは精霊の怒りを何とかする」
「何とかって、まさかあの竜巻に近付くつもりじゃないだろうな」
「分からない。とにかく行かないと」
「無茶だ! エルナさえ消えかかってる。とても話ができるような状態じゃないだろ」
「それでも、これはわたしにしかできない」
トロイはあきらめたように大きなため息をひとつつくと、袖でハラの顔を拭った。
「綺麗な顔が台無しだ」
顔も服も煤だらけだった。トロイは馬の手網を引き寄せ、ハラに預けた。そして改まって胸に手を当てる。初めて会った時に示してくれたのと同じ忠誠の礼だった。
「絶対に帰って来てくださいよ。俺はもう王子の代役なんてごめんなんでね」
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