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トロイの変わらない様子にハラはほっとするのと同時に、ようやく地に足が着いたような気がしていた。
「大丈夫、わたしは必ず精霊の怒りを鎮めてここに戻るから」
とても、さっきまで伯父に監禁されていたとは思えないハラの様子に、トロイは大きく息を吐き出した。
いつまでも自分が守るつもりでいた。けれど、ハラは一年で驚くほど成長し、トロイの世話など必要としなくなっていたのだ。
「ハラ王女、あなたならできます、必ず」
その言葉で背中を押すことくらいしかトロイにはできない。
ハラは王女と呼ばれたことにか、あるいは心配症のトロイが荒れ地に行くことを止めなかったことに対してか、驚いた顔でトロイを見上げていた。
そんな無防備な表情を見せられると、トロイはたまらない気持ちになる。
少しはこちらにかっこいいところを見せる機会をくれてもいいではないか。絶対に手に入らないと分かっていても、一生そばで守るつもりでいた。王子の代役でも、護衛役でも何でもよかった。置いていかれるよりは。
トロイはちょっとムッとして、黙ったままハラを抱え上げ馬に乗せた。
「トロイ……」
「こんな事件を起こした犯人にはきっちり罪を償ってもらわないといけませんね。後のことは俺たちに任せてください」
トロイは持って行き場のない気持ちを仕事に向けることにした。
トロイを置いて小さくなっていく背中を見送りながら、初めて精霊たちに祈った。
どうか、ハラを守って欲しいと。
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