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それはとても不思議なことだった。
未だかつて、荒れ地に雨が降るのをスナリは見たことがなかった。それが今は叩きつけるような雨が乾いた砂地に降り注ぎ、どこまでも見渡せていた景色は雨に烟り、すぐ先も見えない。
どちらに向かって走っていいか分からず、スナリは足を止めた。
国境壁を乗り越え荒れ地に降りたあとは、ひたすらにハラのいるだろう王都を目指していた。どういうわけか、竜巻はみな一方向へ向かって動いていた。
ソニンが誘導しているのかもしれない。
その後は降り出した雨に足止めされ、スナリはびしょ濡れになりながら、全身で水の精霊の声に耳を傾けていた。
「黒い石」「嫌な石」「精霊主が消えかけている」そんな声が重なり轟音となって耳を襲う。
「ハラがどこにいるか教えてくれないか」
スナリの叫びは雨音にかき消される。それでもいくつかの声がスナリに進む方向を教えてくれていた。
「もうすぐ会えるよ」
「ハラもこっちに向かってるよ」
そんな言葉にスナリは容赦なく打ち付ける雨に抗って、力強く歩みを進めた。
やがて雨が止み始めた。辺りは明るさを取り戻し、スナリの視界を広げた。
その先に、一頭の馬が駆けてくるのが見えた。
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