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「……これ、美味いですね。」
「うん……。」
改めて運ばれてきた料理を2人もそもそと食べる。
「こっちの魚も美味いよ。」
「あ、ほんとだ。何の魚ですかね。」
「…メバル、だって。」
「……あー……メバル……」
「これはなんだっけ。」
「そっちはなんか貝ですね。」
「これは……」
「……タコ、ですね。」
「タコか……。」
……。
「この煮付けは…」
「…っクッ……。」
「……新堂くん?」
「……っくっふふ、すみません、なんか、ツボっちゃって……何やってんでしょうね、大人の男2人で……っ」
突然笑い始めた俺に、部長が驚いた顔をしているのがまた笑えてくる。
「……ふっ。」
腹を抱えて笑う俺に、部長までつられて笑い出した。
2人でひとしきり笑い、しばらくして落ち着くと、部長が言った。
「悪かったな、本当に。」
「もう、いいですよ。部長こそ首、大丈夫ですか?」
「大丈夫……と、いいたいところだけど、実は今首だけで振り向けないんだ。後ろ向こうと思ったら体ごといかないと。」
「ほら。」と、ギクシャクと体を動かす様が滑稽でまた笑ってしまう。
「やめっ部長、やめて、やべー腹痛ぇ……あっはっはっはっっ」
「ひどいな、君がやったんだろ。」
いいながら、またわざと真面目な顔でギクシャクと不器用に体を動かすので笑いが止まらない。
「ぶちょ、やめてくださ……っははははっっ」
ひーひー笑う俺をみて部長も笑う。
「やべー、俺部長がそんな面白い人だなんて知らなかったです。」
涙を拭いながら俺が言うと
「俺も知らなかったよ。君、そんな風に笑うんだな。」
と、部長はにこにこしながら言った。
「え?俺結構笑う方ですけど。」
「ん?うん、そうか。そうだな。」
少し気になるような、含みのある言い方だ。
「あの部長、」
「失礼いたします。ラストオーダーでーす。」
「あ、はい……」
結局その日はそこでお開きだった。
「新堂くんは地下鉄?」
「はい。」
「そう。じゃここで解散だな。」
「はい。ほんとに、ご馳走様でした。」
「うん。あのさ、あー……」
なんだろ?キスのことならもう謝ってくれなくてもいいんだけど。俺も悪かったし。
「また、誘ってもいいかな。」
「えっ」
「いやその、変な意味じゃなくて。ん?これ言うと余計おかしいか?えぇとつまり…」
「いーですよ。」
佐伯部長って、もっとスマートな人かと思ってた。
「えっいいの?」
「はい。また美味しいとこ連れてってください。……今日、味わかんなかったし。」
俺が笑うと、
「じつは俺も。」
と、部長も笑った。
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