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「お、あったあった。」 思った通り。鍵はデスクの上に置き忘れられていた。可愛いと言われたキーホルダーのイルカが申し訳なさそうな表情に見えて少し笑う。 件の兄貴の結婚相手(その時はフリーだった。あしからず。)と2人で水族館に行った時に買ったキーホルダーだ。まだ好きで、とか未練がましい気持ちでつけているわけでは無い。どちらかというとこれは…… 「まぁでも、こんなの付けてるから駄目なのかな……」 イルカをゆらゆらと揺らしながらひとりごちていると背後でガタッと物音がした。 深夜の真っ暗なオフィス。もちろん人影は無い。 何?泥棒……? そろり、音のした方へ近づいてみる。 この奥は仮眠室だ。我が社にはシエスタ制度があり、社員はいつでもここで昼寝をして良いことになっている。 適度に睡眠をとることで生産力は向上し、さらに…と、なぜだか企業説明会でのアナウンスを脳内再生させながらそっとドアを開ける。 「失礼しまーす……」 仮眠室の中はシンとしていた。 なんだ、気のせいか。 ほっとして部屋を出ようとしたその時。 「んん……」 !? 呻くような声。今度は気のせいじゃ無い。 振り向き、目を凝らすと、ソファベッドの脇に変な形に丸まった毛布の塊。しばらくもぞもぞと動いた後、ピョコと顔を出したのは… 「部長……?」 「んー……」 佐伯部長だ。 帰りがけに俺を呼び止めた張本人。 めちゃくちゃ仕事のできる人で、人当たりもよく、部下からの信頼も厚い。能力を正当に評価してくれるこの会社でもかなり異例のスピード出世だったらしいと噂で聞いたことがある。いつも仕立ての良さそうなスーツを着こなしていて髪型もピシッとして…… フッ。 思わず吹き出してしまった。 目の前の佐伯部長は髪はボサボサ、まだ寝ぼけているのかポヤポヤとした表情をしてこちらをぼんやりと見ている。 この人のこんな顔、初めて見た。 「部長?大丈夫ですか?」 さっきの物音、ベッドから落ちたのかな。 「んん…うん……。」 部長はまたもぞもぞと毛布にくるまっていった。 「部長、風邪ひきますよ。」 いくらなんでも床で寝たら駄目だろう。このまま放って帰るわけにはいかない。 失礼を承知で丸まった背中をぽんぽんとたたく。 「起きてくださーい。」 「うーん……もうちょっと……」 子供かよ。いつものビシッと決まった姿とのギャップがありすぎて笑いを堪えるのが大変だ。 「部長。佐伯ぶちょー。起きてー」 ゆさゆさと体を揺すると、部長はむくりと体を起こした。 「あ、起きた。おはようございます。」 部長は、眉間にしわを寄せた顔でじぃっと俺の顔を見た。 「部長?」 ちゅ。 ……は? 「あ、ごめん。間違えた。」 ……はぁぁぁ!!??
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