コミュ力のない俺は、頼むと言えない

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 川沿いの桜は満開をすぎ、風が吹くたびに花びらが歩道に舞い降りた。この桜が咲くころ、ツムギという名の若い女が俺の家に身をよせていた。故郷の友だちから頼まれて預かった。事情があってとのことだった。  会話らしい会話もなく、おたがいに気をつかいながらすごした。が、いやな感じはしなかった。それは、若い女性だからということだけではない何か――通じ合うような何かを感じたからかもしれない。その何かは、彼女がいた三日では確かめることはできなかった。  故郷の友だち、イサから電話があったのはツムギが俺の家を離れて半月ほどしてからだった。車で来るというイサを俺は国道の橋のたもとで迎えた。家に呼びたくないというのではないが、春は外のほうが気持ちがいい。それに、言葉で説明するには俺の家までの道は混み入りすぎていた。  顔を合わせるのは去年の冬――イサの幼馴染の親友、俺とは中学からのダチだった男の葬式以来だ。イサの車で川原に降りた。広い川原にはサッカーグラウンドがあり、子どもたちがボールを蹴って遊んでいた。
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