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「アァアギィギィィァがァアーーーー!!!!」
ドクッドクッと破裂してしまいそうなほど激しく打ち鳴らす心臓。身体の内側からジリジリと焼けていくような熱さ。死を感じてしまうほどの苦しさに、ブラックはただただ悶え続ける。
そんな彼の姿を見下ろすホワイトは、先ほどよりも満足げな笑みを浮かべていた。
「あぁ。これで僕は、ようやく本物のヒーローになれるんだ」
「ィ、ヒッ、な、なにを、いって」
「ブラック有難う。僕を本物のヒーローにしてくれて」
ホワイトは所持していなかったはずのスマホを手に取ると、一つの動画をブラックに見せてきた。
その動画は、ブラックが注射器を使って沙耶という女性を怪人にさせている動画だった。
だが勿論、ブラックには身に覚えのないもの。
「そうだよ。これは僕がブラックに変装してやったことさ。でも……これを見た人達は、どう思うと思う?」
そんなのは、一目瞭然だ。
「ブラックが『人間を怪人に改造させていた犯人』だって思うよね?」
今にも胸倉をひっつかんで、ホワイトの顔をぶん殴ってやりたいブラックだったが。肝心の身体はもう言う事を聞かない。
「ブラックが日本中の誰もが知る有名人になるのをずっと待ってたんだ。その方が情報回るのも早いし、何より絶望を感じる人間は多い方がいいからね。あぁ……これでもう僕は、君のくだらない嘘にも付き合わなくて済む」
ホワイトはまるで舞台の役者のようにその場でくるくるとまわり、ブラックの前で軽くお辞儀をすると、演技し慣れた芝居を始めた。
「まずはあの<ブラックは昔ホワイトを虐めていた>という呟き。あれは僕が金で雇った人が呟いたものだよ。まぁ、今はもういないけどね」
突然の衝撃的な言葉に、ブラックは充血した目を見開いたままホワイトを凝視する。
「そしてあの沙耶さん。動画で見せた通りだけど、僕が怪人にさせた犯人さ。というか、今までの怪人もぜーーんぶ僕の仕業だよ。独り身の人とか、ホームレスの人を捕まえて怪人にさせてたんだ。今回沙耶さんだけは、少し人間としての意識を残してもらうために液体を少し減らして打ち込んだんだけど」
先ほどブラックに打ち込んだ液体が入っていた注射器が、ホワイトの手の中で反射して異様な輝きを見せる。
「ねぇブラック。ずっと不思議じゃなかった?僕達の有り得ない夢が突然叶っちゃうなんて、変だと思わなかったの?」
苦しさが消えたかわりに徐々に薄れていく意識の中、ブラックの頬には一筋の涙が伝い落ちる。
ブラックはただ嬉しかったのだ。
子供の頃の夢が叶って、皆にヒーローと呼ばれて、ただただ嬉しかったのだ。
けれど、それは全部ーーーー。
「この日本に怪人が現れるようになったのも、ブラックと僕が強い力を手に入れたのも、全部僕が仕組んだことだったんだよ。じゃなきゃ、あんな子供の夢が叶うわけないでしょ?」
どんどん人としての形を失っていくブラックは、最後に残った人間の口をゆっくり動かして、最後の力を振り絞る。
「う、そ……つ、き。やろぅ……二人で、って、いった……の……に」
「それは君の方だよブラック。こんな僕と二人でヒーローになろうって言ってくれたのに…………まぁでも、本物のヒーローなんて一人いれば十分だけどね」
「じゃあね。さよならブラック」そう言ったホワイトのお別れの言葉を最後に完全に怪人と化したブラックは、狭い部屋でただ意味もなく暴れまわると、そのまま窓を突き破り。報道陣が集まる外へと飛び出していった。
「……正義のヒーローブラックは、今までの信頼と功績を失い。最後は自暴自棄になって怪人になる薬を自分自身に打ち込んだ。そんな彼を失いたくないと涙を流しながらも戦い、最後は悲しい勝利を得るヒーローホワイト。こうしてこの世界には、人々を救うたった一人のヒーローホワイトが誕生するのであった。……くっ……あはは!!あはははは!!!!正義の為親友を失った正義のヒーロー。世界は僕を本物のヒーローと讃え、賞賛するに違いない!!あははは!!これでやっと、僕の夢が叶うんだ!!」
あまりの喜びに、高らかな笑い声をあげるホワイト。
自らの夢を叶えるため、同じ夢を抱いていた男を犠牲にしたうそつきのヒーロー。
「さぁ。ここからが本物のヒーローショーの始まりだよ。ブラック」
ホワイトは持っていた注射器を足で踏みつぶし。用意していた武器を手に取って、人類の敵である怪人を倒しに向かったのだった。
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