<25・希望>

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 茉緒は、言葉が出なかった。望月は捕まって以降、殆ど黙秘しているという。彼女が何を考えてあのようなことをしたのかは完全に闇の中であり、自分達には想像する他ない。それでも彼女が参加者たちからぼったくりとも言えるほどの金を徴収していたのは事実であり、ドラッグ・シグマを使っていわば洗脳的なことをしていたのも紛れもない真実である。彼女に善意があったとしても、金目当ての一面が少なからずあったことを否定するのは難しいだろう。  ゆえに――騙された、裏切られたとあのセミナーに参加していた一部の“サクラ”以外の女性たちならそう思うのが当然だろう。茉緒に勧められた早苗の場合は、茉緒のことだってその一味と思うのが至極当然であるはずだというのに。 「何が正義か悪かなんて、俺には言えない。間違ったやり方だったとも思うけど……それでも、救われた人がいたのも、まぎれもない事実だったとは思います。早苗がそう信じるなら、俺も信じたい。貴女も……これを作った人も、人を救いたい気持ちに嘘はなかったはずだって。そしてそんな誰かに救われた気持ちだって、捨てなくていいんだって」  この人は、どこまで見抜いていたのだろう。気づけば茉緒はストラップを携帯事ぎゅっと握りしめていた。  自分はどこかで思っていたのだ。これを、ずっと大切にしていていいのだろうか。望月は犯罪者になってしまった。自分はその彼女に縋り、友人を貶めた。それでもこのストラップを、望月に貰った思い出と救われた記憶を、抱きしめたまま生きていていいのだろうかと。 「……ありがとうございます」  自分はもう、高校時代の純粋だった頃には戻れない。  誰かを救う正義のヒーローには二度となれないと、そう思っていた。でも。 「私……私。早苗に、ちゃんと謝ります。自己満足じゃなくて……自分のためじゃなくて、誠意のために。それから……そんな早苗に、もう一度友達としてやり直させてもらうために」  何故この人を早苗が選んだのか、わかるような気がする。ほんの少しだけ小さな嫉妬心が湧きあがって――茉緒はそれを、ぎゅっと握りこむようにして蓋をした。  ぽつり、と手の甲に落ちる雫は、やや早すぎる梅雨の訪れか。  本当の土砂降りはこれからなのかもしれない。それでも、自分はもう一度歩くことができるだろうか。早苗が、この人と共に立ち向かうことを選んだように。  雨の後にかかる綺麗な虹を信じて、もう一回。
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