飴玉

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 エナメルバッグと、バスケットのボールケースを交差させて背負う私は、まだ陽の見えない駅のホームを踏んだ。  吐く息が白い。ジャージの青と水色にさえ、どこか温かみを感じる。 始発まで、あと3分。駅のホームには、影のようなサラリーマンが2人いるのみ。  日曜の朝というのは、いつもこんなものだろうか。  そんなことを考えながら、私は先頭車両が停まるところまで歩いた。 試合の日の朝は普段より30分早い。急いで用意したインスタントスープが、まだかろうじて私の胃袋を温めている。  私はエナメルバッグのポケットに手を伸ばした。  ささくれが繊維に引っかからないように気をつけながら、飴玉をひとつ取り出す。小さな皺のたくさんついた、黄緑の包み。赤くなった指先で、『青リンゴ味』の包みを破る。 ぽん! 鮮やかな黄緑色のそれは、音をたてて飛び出した。そして、あれよあれよとホームから転げ落ちる。 「あ」 漏れた声も飴玉を追いかけ、線路に落ちた。 さび色の石の間で、それペリドットだった。
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