嘘つきの王さま

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 また次の日、国からたくさんの人が消えた。  転んだ子どもに、痛いの痛いの飛んでいけー、と唱えた母親。  けんかをした恋人に、大嫌い、と叫んだ女性。  泣きじゃくる子どもに、おばあちゃんはお星さまになったんだよ、と頭をなでた父親。  遠くへ旅立つ友人を、寂しいわけあるかと笑って見送った青年。  布団の中で咳き込みながら、大丈夫だよ、と小さく笑ってみせた子ども。  忍び寄る闇に足が止まった弟の手を、怖くないよ、と握って歩き出した少女。  心配する友人から、何でもない、と顔を背けた少年。  みんな、いなくなってしまった。  国中が静まり返った。  話す相手がいなくなって、いつ自分も消えてしまうのかと怯えて、口を閉じた。  王さまは鏡の前で立ちつくした。 「なぜだ?」  消えた小さな声を、鏡だけは聞いていた。 「みんな、嘘をついていましたよ」 「嘘?」 「みんな、嘘つきです」  王さまは考えた。  嘘つき。本当のことを言わなかったから? 「そういうことじゃない」  王さまは、そんな魔法をかけたいわけじゃなかった。 「でも、噓つきですよ」  鏡は繰り返す。  そうだ、嘘をついたら、嘘つきなのだ。  でも仕方ない。だってこの魔法を解いたら、悪い人もまた現れてしまう。  そうだ、これはみんなのためだ。  王さまが望んだことなのだ。  だから王さまは、そう、 「良かった」 嬉しいのだ――。  王さまの胸が、ぎゅとなった。  王さまははっとした。宝物の部屋を片づけていた、あの日と同じ痛みだった。  王さまが顔をあげると、鏡にはいつの間にか王さまが映っていた。王さまと、王さまの後ろにあるはずの壁が映っていた。  驚いて身体を触ろうとした王さまの手が、王さまのお腹をすり抜けた。身体が薄くなっていた。足が透けている。後ろの壁が見えている。 「どうして」  王さまの声がかすれた。  何で。王さまは嘘つきじゃない。
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