嘘つきの王さま

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 王さまは正しいことをした。  これは仕方ないのだ。  良いことなのだ。  文字が踊らない国。色が失われた国。音が泳がない国。  静かな、静かな、生き物の音がしない国。  変わり果てた国を前にして、王さまの目から涙がこぼれた。  そうだ、王さまは噓つきだ。  これはこんなはずじゃなかった。  大丈夫じゃなかった。平気じゃなかった。宝物が消えて、良くなんてなかった。他の人が騙されなくて良かった。でも王さまだって騙されたくなかった。嘘をつかれて悲しかった。  ぎゅっとなった胸は、とても痛かった。  嬉しくない。  悲しい。寂しい。嫌だ――。  王さまの涙が地面に落ちると、国中が光に包まれた。  まぶしくて目を閉じた人々が気がつくと、国は元通りになっていた。  消えた人も、歌も、音楽も、絵画も、本も、みんな元通りになった。  魔法が解けた国は、またにぎやかになった。  みんな好き好きに話して、本や、絵や、音楽や、歌を楽しんだ。みんなを困らせた嘘つきも戻ってきたけれど、国には笑顔があふれた。  ただ王さまだけは、元通りとはいかなかった。  みんなと話していて、この人は嘘をついているかもしれない、と、ふと思うことがある。  そういう時は少しだけ、胸が痛くなる。  でも王さまは、もう魔法をかけようとは思わない。  だってみんな、いつだって嘘つきになると知っているから。  王さまの中にも、ずっと嘘つきが住んでいるから。
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