嘘つきの王さま

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 次の日、国からたくさんの絵が消えた。  想像で描いた絵は嘘なのだ。  壁に飾られた絵画がなくなって、お城が暗くなった。  でも仕方ない。王さまは首をふった。  だってこれは、みんなのためだ。  また次の日、国から音楽が消えた。歌が消えた。  王さまは驚いて、思わず鏡に問いかけた。 「なぜだ?」  鏡は王さまを映して答えた。 「音を繋げて生まれた音楽は、想像でできています。歌で紡がれる物語は作りものです」 「……そうなのか」  そうなのか、と王さまはかみしめた。  想像は嘘なのだ。  映った街は、どこも静かだった。  でも仕方ない。王さまは首をふった。  だってこれは、みんなのためだ。  街を映し終わった鏡の中で向かい合った王さまは、どうしてか浮かない顔をしていた。  また次の日、国から何人もの人が消えた。  質の悪い商品を良い商品だと言って、高いお金をもらった店主。みんなのために頑張ると言って、何もしていなかった領主。ありもしない病気の話を広めて、みんなを怖がらせた人。  鏡に映った街にも、ほっとした表情を浮かべた人がいる。  その日にはまた、物語を書いた人も、絵を描いた人も、音楽を作った人もいなくなっていた。王さまの目には留まらなかった。  王さまは満足してうなずいた。そうだ、これでいい。
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