嘘つきの王さま

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 この国には優しい王さまがいた。  王さまは国のみんなの話をよく聞いた。知識も知恵もあった。そうして国を治めていたから、みんな王さまのことが大好きだった。  王さまもみんなのことが大好きだった。  王さまは毎日みんなに出会うことはできなかったけれど、王さまの部屋にある鏡は国を映してくれた。  鏡は王さまが問いかけると応えてくれる。王さまはそうやってみんなの様子を知ることができた。  ある時、一人の旅人が王さまの国を訪れた。  王さまは旅人をもてなした。王さまは旅人の話を聞くのが好きだった。王さまはずっと王さまだったから、あまり国の外に行くことがなかったのだ。  王さまは旅人に、色んな国の話を聞かせてもらった。旅人は王さまの親切とおいしいご飯に喜び、王さまにこう言った。 「実は王さま、お見せしたいものがあります」  旅人は胸のポケットから麻袋を取り出した。使い込まれて色褪せたような、薄い色をした小さな袋だった。  旅人は紐をほどいて、きゅっと袋の口を引き開けた。 「どういったものだ?」  王さまは少し身を乗り出した。旅人はよく見えるように、袋の口をそっと寄せた。  袋の中はお城の光をもってしてもなお暗く、王さまには、何かが底にある、ということしか分からなかった。 「これは薬となる種です。どんな病でも――とは、残念ながらいきませんが、他の方法で直らなかった病気が治ると」  旅人は手のひらの上で、袋をそうっと傾けた。ころころと出てきたのは、真っ黒な真ん丸の種だった。
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