3人が本棚に入れています
本棚に追加
バスの座席に座りながら、ボーッと天井を見つめていた。
私は死んでしまったのだろうか。
だから今、この不思議なバスに乗っているのだろうか。最後に家族に会いたかったな。
バスの揺れが心地良くて眠りに身を任そうと思っていた時、またバスが何処かに停車した。
窓の外を覗くと、見た事ある公園だった。
私は急いでバスから降りた。
鼓動がドクンドクンと脈打つ。
この公園は、彼とよく来ていた場所だった。
春になると美しい桜が咲き誇る。夏になると2人で花火をしたり、秋には黄金色の枯葉を踏みながら手を繋いで散歩して。
大好きな横顔をずっと眺めていた。
ぼやっと灯る街灯の下、ベンチに誰かの影が見えた。別れた彼だった。
私はびっくりして、後ろの木陰に隠れた。
〝芽生は元気だろうか〟
彼の心の声が聞こえてくる。耳に語りかけてくるみたいに響く。
〝あいつは悩んでいる様だったのに、俺が気付いてあげられなかった。俺が守るって言えば良かったのに、そんな勇気すらなかった〟
そんな事思っていたの?
私は会社での事を彼には言わなかった。心配をかけたくなかったから。
〝芽生を守っていく自信がなくて、別れを告げた事を死ぬほど後悔していた。今でもあいつが好きなのに〟
涙が頬を伝っていく。
私も今でも一輝が好きだよ。悩みを言わなくてごめんなさい。
「まだ、間に合うかな。芽生に会いたい」
彼は立ち上がり、公園の出口に向かって駆け出して行った。
私は何で死のうとしたの?彼は私が自殺した姿を見たらどう思うだろう。冷えきった体を見てどう思うだろう。胸が痛い、キュッと締め付けられる。
私は泣きながらバス停へ向かい、バスに足を踏み入れた。
バスは走り出す。
頭の中に後悔の波が押し寄せていた。
生きたい、そう思う。
生きて家族に会いたい。
生きて一輝に会いに行きたい。
間に合うだろうか。
「運転手さん!私、生きたいんです!もう死んでるかもしれないけど、生きたいんです!」
「そうですか、良かった。そう思う事が出来て。さぁ、終着駅に着きますよ。人生のターミナルへ」
「終着駅?人生のターミナル?」
「そこにきっと、あなたの会いたい人がいるはずです」
バスは人生のターミナルに向かって、再び走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!