alive

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右手首を確認した。切ったはずなのに傷痕がない。ほっぺをつねってみても、しっかり痛い。夢じゃない? バスの振動に揺られながら、カーテンを開けて外を確認した。懐かしい風景が広がっていてびっくりした。高層ビルもない田んぼ、畑に小山。外に広がっているのは、私が生まれ育った故郷だった。 え?どうして? バスが停留所に停まる。 「さぁ、降りて下さい。10分後に発射しますので、それまでに戻って来て下さい」 運転手さんはそう言うと、扉を開けた。 私は訳も分からず、とりあえず降りた。 懐かしい空気、自然の匂い。山々から流れてくる小鳥のさえずり。 だいぶ帰ってきてなかった。逃げる様に、家族から逃げ出す様に、家を出たのだから仕方がない。 田んぼ道を歩くと、住んでいた家が見えてきた。赤い屋根が懐かしい。ドキドキしながら近付いて行くと、一台の軽トラックが玄関前に停車した。誰だろう。 車から出て来たのは、若き頃のお父さんとお母さんだった。お母さんは小さな赤ちゃんを胸に抱っこしている。 2人は家の中へ入って行った。私は急いで家へと歩み寄り、少し開いた窓から中を覗いた。お父さんもお母さんも若い。いつも怒ってばっかりのお父さんの面影はない。 「赤ちゃん、可愛いな」 「そうね、すごく可愛い」 お母さんは愛しそうに、赤ちゃんの紅葉みたいな手を撫でた。 あの赤ちゃんってもしかして…… 「赤ちゃんの名前はどうする?」 「そうねー芽生、めいはどうかしら?」 「可愛い名前だ」 「芽吹いて行くように。自分で芽を出して頑張って生きて欲しい、という願いを込めて」 「いい名前だ」 自分で芽を出して、頑張って生きる? 私は涙が溢れ出した。 2人がそんな思いを込めて、私に名前を付けてくれたなんて知らなかった。 2人は愛しそうに赤ちゃんを見つめている。その目に、その愛情に、偽りなど感じない。私を本当に愛していたんだ。 私は駆け出した。 果てしなく続く田んぼ道。涙の玉が風に乗って、流れて行く。 あんなに大事にしてくれた命を、自ら消そうとしていた。自分勝手に逃げていただけなのか。 家族にも相談せず、全てから逃げようとして戦わなかった。 自分から芽を出そうとしていただろうか。 無性に家族に会いたくなった。 バス停には、まだあのバスが停まっている。 私は何で自殺なんて考えたのだろう。少しの後悔を感じながら、バスの中へ足を入れた。
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