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私は浴槽に水を張った。その横へと腰を掛け、カッターナイフを握り締めた。
右手首に刃を当て、一直線に線を引いた。
真っ赤な液体が体中から抜けていく感覚がする。体の力がスーッと抜けていく。透明な液体が、ゆらゆらと朱色に染まっていくのを眺めた。
楽になれるだろうか。
私は誰にも必要とされなかった。学校ではいじめられ、社会人になってからもセクハラ、パワハラ……初めて出来た彼氏にも振られた。
弟は出来が良かったが、私は出来が悪かったので家族からも必要とされていなかった。
こんな人生が嫌だった。
だから、幕を下ろす事にした。
これで、いいんだ。
悲しむ人なんていないのだから。
薄れゆく意識の中、瞼を閉じると生温かい雫がポタリ、と溢れ落ちた。
**
「あのー、お客様!切符は?」
え?
急いで目を開けると、目の前には制服と帽子を被ったバスの運転手らしき人がいる。周りを見渡すと、私はなぜかバスの中に居た。
え?私はさっきまで、浴槽に……。
「切符、ポケットに入っているはずです」
「え?は、はい」
私はポケットを確認する。一枚の四角い紙が入っていて、ポケットから出して確認した。
水色の切符。
〝人生のターミナル行き〟
そこにはそう印刷してある。
「え?な、何?これ?」
「切符、確かに貰いました。さぁ、人生のターミナルに向かって走り出します」
「え?」
訳が分からないまま、そのバスは走り出した。
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