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五
行くところがない。赤銅は駅前のホテルに宿泊した。
身代わり出頭して出てくれば、一気に出世するなどと期待していたわけではない。しかし、邪魔者扱いされるとは思ってもいなかった。
怒りと悲しみとが抑えられない。俺は切り捨てられたんだ。
復讐したいと思う。しかし、どうやって? そもそも、誰に対して復讐するべきなのだろうか。若頭も、喜んで切り捨てたわけではないはずだ。上部団体の決めたことに異を唱えることはできない。最初からだますつもりで嘘を言ったわけではないだろう。
身代わり出頭の原因となった殺人を犯した上の幹部を恨むべきなのだろうか。
翌日の夕方になってようやく、赤銅はホテルを出た。
市役所の周りは、古いビルが解体されて再開発されている。
目的地の釜飯屋は、すぐに見つかった。
「準備中」の小さい看板が出ているが、かまわずに横開きのドアを開けた。
カウンター席の向こうに、頭にタオルを巻いた男が立っていた。
「開店はまだだよ」と男は俯いたまま言った。
「ひさしぶりだな。元気にやってたか?」
赤銅がそう言うと、男は顔を上げて赤銅のほうを見る。
「え……、アニキ?」
「おう、聞いたよ。足洗ったんだってな」
小堺は赤銅の顔を見つめたまま、硬直している。
「出所したんですか?」
「昨日な。店は繁盛してるのか?」
「いえ、まあなんとか……」
そのとき、店の奥に通じる暖簾の向こうから、
「誰か来たの?」という女の声が聞こえてきた。
そして暖簾が動いて、ひとりの女が出てきた。
その女を見て、赤銅は心の底から驚いた。
万智子だった。
なぜここに、万智子がいるのだろうか。
そんなことを思う間もなく、小堺がカウンターから出てきて、床に頭をこすりつけて土下座をした。
「すいません、アニキ!」
すべてを察した赤銅は、
「いや、いいんだ。万智子のことを頼んだのは俺だ」と言った。
万智子は立ち尽くして、ただ涙を流している。
「邪魔したな。がんばれよ」
そう言って赤銅は逃げるように店から出た。
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