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ところが、
「パパッ! おい、そこのお前、パパを離せ!」
「へ?」
ツボミの切羽詰まった声に視線を向けると、なんとシンが、男に背中を掴まれて、車の影から引きずり出されるところだった。
シンは肘を曲げてホールドアップし、完全に無抵抗を示している。
「――は?」
山田は唖然とした。
「何やってんスか、シンさん」
ホンキで『何をやってるんだ』と思った。
シンがおとなしく捕まるだなんて、あり得ない。
「どうした?」
「なんで?」
疑問の声は、男の仲間からも聞こえてくるほどだ。
それはそうだ。
目の当たりにしても信じられない。
ついさっきまで無敵の戦闘モードだった男が、なんで急に、あんな借りてきたネコみたいになってしまったのか。
それは、
「パパッ、おとなしくしてろよ。今助けるからな」
血相変えて叫んでいるツボミのせいだ。
シンは、娘のツボミの前では、けっして鴻上信芳の仮面を外すことはない。
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