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プロローグ
生温い風の吹く日だった。
分厚い雲は青空を隠し、眩い日差しを遮っている。
この場の空気が澱んでいるのは、それだけが原因ではない。
湿った土の感触をブーツ越しに味わいつつ、リスティリアは天を仰いだ。
彼女は黒い衣装で身を包み、同じく黒いケープを羽織っている。
教会に属する証である衣装であった。
緑色の瞳を閉じ、口を開く。
紡ぎ出され始めたのは、鎮魂歌。
墓場に相応しいそれは哀愁漂う音色として響き渡る。
数々の墓石はただ無言で傍聴者に徹する。
他に盗み聞く者がいたのなら、歌声が響き渡るにつれて場の空気が変化していると気付いただろう。
澱んでいた空気が、澄んだそれに。
重苦しい気配が霧散され、軽やかなものに。
それらは全て、一人の修道女がもたらしたもの。
教会に属する修道士が扱う、奇蹟の一端である。
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