スタートオーバー

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ブラインドを上げると、温かな光が目に染みた。そして、この世界のことを思い出す。 かすかに響く電車の音が、懐かしさを誘った。下の通りでは信号が青になり、曲を奏で始める。道行く人が、あと五分早めに出ていればという顔をして、足早になっている。それを尻目に鳥たちは、さえずりながら、次の餌場を目指して飛び立ってゆく。 窓の外は朝だ。いつものような。 美しい。街の目覚め。 ごくごく平凡で、当たり前の、平和に流れるこの時間が彼女を優しく包み込んだ。 久しく忘れていた感覚に嬉しくなる。深呼吸をしながら背伸びをすると、漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐった。ふいに気がついて、振り返るのだけれど途端に、泡がパチリと弾けて何も残らないように、今、忘れてしまった。 なにか、違和感があった。 けれど失せてしまう予感。吸った空気が溜め息に変わる。思い出そうと探すのだけれど、丸まって寝ている相方が目に入り、それが気になって思い出せそうもない。さっきまであったはずなのに。 どうやら探し物は、記憶の彼方へ逃げてしまったようだ。
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