スタートオーバー

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サチは、あっ。と口を開けて匂いを嗅ぐ。そう、違和感の原因はこの香り。納得したサチはたまらず笑顔になって辺りを見回す。 「コーヒー!コーヒーの匂いがする!どうして?!」 『起床時に、窓の演出とコーヒーを提供するよう、ロバートから指示がありました。あなたが心地よく目覚められるようにと』 「まあ!最高!どおりでケビンにしては気が利いてると思ったのよ」 壁際に備え付いたコンベアを見る。トレーの上に、蓋付きのカップが置かれていた。 手を擦り合わせて近づいて、少し冷めてしまったコーヒーに口をつけ、途端に顔がみるみる歪んでゆく。 「うげっ。にがっ」 『まずいのですか?』 「けほ。う、うん。ケビンこれ、豆をローストしすぎてる!」 『すいません。ロバートからのデータを、この船の三次元精密プリンターで復元はできたのですが……その豆は、生豆の状態でした。それゆえにロボットが焙煎するしかないのですが、私たちAIにとって初めてのことでありまして……』 「はー。でもおかげで目が覚めたわ。アハハ」 『失礼しました。ロバートに問い合わせたかったのですが、すでに通信圏外に入ってしまい』 「今度は私がローストの仕方を教えてあげなくちゃだね」 『恐縮です』 そしてまた思い出したように、もう一度窓辺に戻る。 「ケビン。本当の外の景色を見せて」 承知しましたという声と同時に、室内の照明が落とされる。 一変して真っ暗な深い闇…… かと思われた窓の外の景色。 サチは、ガラスに額をこすりつけて目を凝らす。 目が慣れてゆくにつれ、無数の光が輝きを増してきた。外は、壮大な宇宙空間が広がっているのだとわかる。 一際明るく輝く大銀河が、目前に迫ってくるようで、目を見開いて感嘆する。 「わあ。アンドロメダ!こんな近くに!」 『はい。アンドロメダ銀河はおよそ時速二百三十キロメートルでこちらに移動してきています。私たちも移動してますから、だいぶ近づきました』 地球から望遠鏡で覗くあの小さなアンドロメダが、いまでは窓枠に到底収まりきらないほどだ。
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