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不完全だから少女
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「もう…殺してくれ…」
誰の声だ…?
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「いつか必ずお前を取り戻す……必ずな…」
ダレノ…コエダ…?
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西暦2705年9月2日 17:20
肌寒い秋風が吹く旧東京都。このあたりは軍事兵器を使用したことによるクレーターが点在しており、未だに血なまぐさい臭いを撒き散らしていた。
この場所にはもう人は来ず、廃墟となったビルが並んでいる。その中に他のビルに比べて特別低いビルがあり、一番目立つところに『月喰対策研究所本部』という文字を他のビルとは違う空気を放ちながら点滅させていた。
そのビルの地下から蝙蝠のような不気味な声をあげながら地上へ上がろうとするエレベーターがあった。
中には居たのは4名。手には銃を持ち、分厚く硬い鎧を纏い今の時代には不格好な装備の3人の男と彼らに銃口を向けられながら、案山子のように立っている少女がいた。年齢は大体10歳以下だろう、これ以上は予想できない。なぜなら、多くの人が彼女見たとき栄養失調を疑うほど痩せこけていて、肌は青白く、とても正確な年齢がわかるほどの健康状態ではなかった。
エレベーターから発せられる不気味な音の中で、3人の男は一言も発することなく、ただ彼女に銃口を向けていた。
「あのー、こんな少女に銃口を向ける意味があるんですかね?」
一人の若い男が、急に喋りだした。若い男の名はユズキ。昨日急にこの任務を任せられた男だ。
きっとこの緊迫した空気と少女に銃口を向けている状況がよく理解できていないんだろう。するとすぐに背の高い一人の男が反応する。
「おい、任務中だ!お前はただ黙ってコイツに銃を向けていればいい!」と、ユズキに怒鳴りつけたのは田中という男。普段から酒を多く飲んでいるため、声が酒やけしていて聞こえづらい声をしている。
「そんな怒鳴らなくてもいいじゃないですか、僕なんか任務の詳しい情報とか、田中さんと森田さんの顔もわからないんですよ!」ユズキは田中に訴えかける。しかし田中は納得いっていないようだ。
「俺らの顔なんかはどうでもいい!今は任務に――」
「まあまあ、説明ぐらいしてあげても、いいじゃないか。彼は昨日急にこの任務に配属されたんだ。ここは地下50階まだ地上まで時間がある。」
田中の言葉を遮ったのは森田。
彼はユズキよりも背が低く、田中よりも優しく落ち着きのある声をしている。あまりに対照的な2人なので、ユズキは背の高さと声の大きさは比例するのかと考えた。すぐに田中は言葉を遮られたことに対する苛つきなのか2人に聞こえるように舌打ちをした。しかし彼はそのままユズキに説明を続けた。
「ユズキくんは、もちろん月喰つきぐいを知っているよな?」
「ええ、そりゃあまあ…でも詳しい種類はわかりません…」
月喰とは9年前に突如現れた人を喰らう怪物のことだ。なんでも、月からきたらしいが真実はどうかはわからない。月喰が現れてすぐに全ての国がこの怪物を殲滅するため軍事力を行使したが、減るどころか今では数を増え続けている。
「そうか、じゃあまず月喰には種類が4種類いるわけだが…」
森田の言うとおり、月喰には4種類存在している。
1つめが『エーレンド』。月喰の中で最も数が多く、集団で活動している。牛の角にトカゲの頭、それに加えて毛むくじゃらの体をしている。見るだけでも呪われそうな見た目をしている。
2つめが、丸い頭部に直接一本足と一本腕が生えているのが特徴的な『ハイ•エリー』と『ビ•ベルー』。
前者がオスで後者がメスだ。
3つめが『アイガムバ』。人の形をしているが、目は足のこうについており獲物を追うときは目が見えないため嗅覚で追う。
最後が『ゴーグリフ』。月喰の中でも凶暴で主に単独で行動している。見た目はケンタウロスに非常に近い外見をしている。
「もっ…もしかしてこの少女がその4種類のうちのどれかに属してるってことなんですか!?」
「まあまて、説明はまだ終わってない」
森田はユズキを諭すように言った。
エレベーターの階層を示すランプは38階のところで光っている。
「これらの種類を総じて月喰と言うわけだが、今俺達が連れているこの少女はこれらに属さない月承種という種だ」
「月承種…?」
声に出した瞬間、少しエレベーターの中が寒く感じた。
こんなに分厚い装備をしているのにも関わらずなぜだ、と疑問に思いながらもユズキは森田の説明を聞き続けた。
エレベーターは25階を指している。
「ああ、正確な個体数は上層部しかわからないけどね…これで説明は終わりさ」
「それで終わりすか…?」
「ああ、終わりさ」
あまり聞きたいことが聞けなかったが、もう少しで地上に出るのでユズキは質問を諦めた。
「もう十分だろ、任務に集中しろ」不満そうな声で田中が言った。
「でも…その…なんかかわいそうですよね」ユズキは銃口を下げしゃがみ込んで少女に視線合わせる。
「おい!危険だ!」田中が焦った口調で話す。
エレベーターは18階を指している。
「こんな身体になるまで監禁されて、危険なのはわかりますけどそれにしても……」少女の頭に手を置きはじめる。
「ユズキくん!それ以上は本当に危険だ!今すぐ戻れ!」数分前の説明していたときの声の数倍の声だして森田が止めに入った。
エレベーターは10階を指している。
「大丈夫ですよ!この子笑ってますよ!きっとリラックスしたかったんですよ!」ユズキは笑いながら頭を撫で続けている。
田中と森田は、さっきの怒りや焦りの声から一転して、恐怖で声を震わせて言った。
「今…なんて?」
ユズキは彼らの異変に気づき、思わず彼らの方を見た。
「え?いま笑いましたよって…?」
「ソイツはこれまで一度も顔を緩めたことはないぞ…?」田中が震えた声が事の異常さを物語る。
「田中…撃つ準備をしろ…」森田が田中に声をかける。
「え…?待ってくださいよ!」
ユズキは横目で少女を見ると次の瞬間、少女は舌を出していた。
赤い蟷螂のような紋章を表面に光らせながら。
エレベーターは4階を指したまま止まった。
蝙蝠のような不気味な声はいつの間にか止んでいて、途端に周りの温度が低くなった。
「撃てぇ!!」
森田が大声で叫び、2人同時に銃を撃とうとしたとき、エレベーター内の明かりが全て消えた。そして数秒後、落ちる感覚を感じ「死ぬ」と思ったときには目の前が暗くなっていた。
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