5人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、青年は何度も正直村へココアを売りに来ては、ヴァールハイトの元へ寄って一休みしてお話ししてから帰るようになりました。ヴァールハイトは、青年の言葉を理解するのに時間があまりかからないようになりました。
「君の名前は?」
「ヴァールハイトだ。お前……はい」
お前は言わなくていい。と言うのを遮って青年は応えました。
「僕はリューゲだよ。よろしくねヴァールハイト」
ヴァールハイトは、リューゲが言った名前が嘘の名前だと思っておりましたが、リューゲの髪が少し白っぽくなっているのに気づきました。
「リューゲって、本当の名前なのか?」
「うん。君には本当の名前で呼んでほしくてね。じゃないと、嘘つきになっちゃうだろう?」
「でもお前が嘘つきじゃなくなるじゃないか。ほら、髪がこんな風になってるぞ」
ヴァールハイトはリューゲに鏡を見せました。リューゲは驚きましたが、そっと笑って言いました。
「僕は君と会って、ずっと本当の事が言ってみたいと思ってたんだ。僕はこれで村に帰ってどうなるかは知らないけど、君とお話しが出来るなら僕はこれでいいよ」
ヴァールハイトはリューゲが心配で聞きました。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
リューゲは笑って応えました。リューゲの髪の色は変わりませんでした。ヴァールハイトは、リューゲがついた嘘が優しいと思いました。そして、優しい嘘があることを改めて知りました。
ヴァールハイトは改めて聞きました。
「リューゲ。俺の顔は醜いか?」
「ううん、きれいだよ。どんな顔でも、僕は君が大好きだよ」
リューゲの髪がまた白っぽくなりました。
「そうか、ありがとう。俺も大好きだ」
「ありがとう、じゃあね」
リューゲは嘘つき村に帰っていきました。
翌日、嘘つき村に灰色の髪の異端の嘘つきがいると、正直村で話題になりました。その異端の嘘つきが誰か分かったヴァールハイトは、正直村で少しずつ優しい嘘をつくようになりました。
そしてヴァールハイトの髪も灰色になった時、ココアを売りに来たリューゲがヴァールハイトに言いました。
「何してるんだ君は! 何で君までそんな髪に……」
「醜い髪だと言われるくらい大したことない。醜いと言われることには慣れてるからな」
「でも……」
「俺は、リューゲに会って嘘つきも悪くないと思ったんだ。だから、少しやってみただけだ」
ヴァールハイトが笑ってそう言うと、リューゲは泣きながらヴァールハイトに抱きつきました。
「なぁ、リューゲ。俺達だけで、違う場所で暮らさないか?」
「うん、そうしよう。きっとその方がずっと幸せだよ」
その日の晩、ヴァールハイトとリューゲは村を飛び出し、二つの村の間に流れる川の畔に小屋を建ててそこで二人で暮らしました。
それから暫くして、正直だけど時々嘘つきな村と、嘘つきだけど時々正直な村というへんてこな二つの村ができました。その二つの村の村人は皆灰色の髪をしておりました。
最初のコメントを投稿しよう!