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ルール説明
2
「動物名前当てゲーム
①人数分の紙を用意して動物の名前を書く。
②セロテープで一人一人の背中に紙を貼りつける。
③自分からは背中の紙が見えないので、プレイヤーは自分の背中に書かれている動物の名前を当てなければならない。
(ルール)
(1)他の人に自分の背中を見てもらい、動物の名前を確認してもらう。
(2)プレイヤーは「クローズド・クエスチョン(イエスかノーで答えられる質問)」をしなくてはならない。(※「オープン・クエスチョン(自由に答えられる質問)」をしてはならない)
(3)その質問の答え(はいorいいえorどちらでもない)から、自身の背中にある動物の名前を推理する」
「このゲームを今日の授業では行おう。相談援助ではクローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンを上手く使い分ける必要がある。実際に『字を読むことが出来ない男性が生活保護の申請をしに来た』というケースがあるからね。そういう場合、『YES or NO』で申請者の情報を得なければならない。だから、『クローズド・クエスチョン』でどれだけ正確な情報を収集できるか、その難しさを実際に体験してみる必要がある。じゃあ、背中に紙を貼るから目を瞑っていて欲しい。準備は良いかな?」
九条先生はそう言いながら、クリアファイルからA4程度のレポート用紙を取り出した。鞄からセロテープも取り出し、準備は万端の様だ。その様子を見て、俺を含めた受講生は指示通りに目を瞑った。
ちなみに、俺は推理小説研究会に所属しているのだが、このゲームは其処で何回か体験したことがある。あの時は、会長の八神叡瑠に一回も勝つことは出来なかった。上記の説明だけじゃイマイチ理解できない人も居そうなので、簡単に例を示しておこう。
「例;『キリン』の名前が背中に貼られていた場合。
①『草食ですか?』➝『はい』
②『体に模様がありますか?』➝『はい』
③『人間より小さい動物ですか?』➝『いいえ』
④『水族館に居ますか?』➝『いいえ』
⑤『首が長いですか?』➝『はい』
答え➝『キリン』が正解」
こんな感じだ。2020年代に『アキ〇ーター』とかいうアプリが流行ったそうだが、アレと似たようなものだ。
「はい。全員に貼り終わったから、もう目を開いてもいいよ」
九条先生の声と同時に俺は目を開けた。背中には確かに、何かが貼り付けられているような感触がある。俺以外の七人の学生にも同じように紙が貼られているのだろう。ふと、左隣の席に居る女子学生(確か、清水という名前だった)の背中を見る。背中の紙には「鷹」と書かれていた。意外に難しそうだ。
「よし! じゃあ、早速、ゲームを始めて行こう。質問は一人につき一つだからね。同じ人に二回、質問しちゃ駄目だよ。あと、この教室に居る人以外に聞いたり、スマホのカメラ機能を使うのもNGだ。去年、LINEのテレビ通話を使って背中を映して、友達に見てもらってた人が居たからね。その人は問答無用で罰ゲームになったけど……」
「罰ゲーム?」
向かいの席に居た男子学生(確か、筒井という名前だった)がぎょっとした様子で声を上げた。
「そんなぁ、聞いてませんよ……」
「罰ゲームって何なんですか!」
教室中をブーイングの声が飛び交う。九条先生は特にたじろぐことなくブーイングの声を制した。
「まぁ、待ちたまえ。罰ゲームと言っても大したことは無い。授業時間終了までに当てられなかった人には、『何故、当てることが出来なかったのか』というレポートを二千字以内で書いてきてもらうだけさ。時間内に当てられれば何の問題も無いだろう。動物の名前が分かったら僕に知らせに来るように。じゃあ、頑張ってくれ」
……最悪の罰ゲームだ。俺は頭を抱えた。先程も言った通り、俺は大学三回生。無論、周りの連中もそうだ。俺達はこの時期は就活に追われることになる。今週も第一志望の企業の説明会が入っているんだ。レポートに時間を割く余裕なんて、これっぽっちも無い。他の奴の顔色を見ると、案の定、今すぐにでもキレそうな余裕のない表情をしている。
まぁ、良いだろう。このゲームの勝利条件は「授業時間終了までに動物の名前を当てる」ことだ。「先着何名までが合格」というルールは無い。皆で簡単な質問を出し合うなどして協力し合えば、簡単にクリアできる。楽勝だ!
こうしてゲームは始まった。でも、この時の俺の考えは甘いものだと思い知らされたんだ……。
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