チェックメイト

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チェックメイト

4  「藤原グループ」。俺が今週の説明会を予約している企業の名前だ。先程、日本の総人口が約五千万人になってしまった話をしたと思うが、そんな少子高齢化の影響で現在の日本経済は芳しくない状況に陥っている。それ故に、就活も過去のバブル期とは比べ物にならないくらい困難になっている。そんな中、藤原グループは株価も上昇し、業績も好調。就活を控えた学生なら誰だって入社したい大企業なのだ。だが、当然、超大手なので倍率はかなり高い。限られた椅子に座ることが出来るのは一握りの学生だけだ。そして、ウチの大学からも俺を含めた数多くの学生がその椅子を狙っている。  説明会やインターンシップは第一志望の会社ならば絶対に受けるべきイベントだと言える。会社の企業理念や働き方など、面接で役に立つ情報が散りばめられているからだ。裏を返せば、こういったイベントに参加しないということは数多いライバル達とかなり差が開いてしまうということだ。  ようやく分かった。何故、皆がをするのか。週末に二千字のレポートがあれば、説明会に参加している余裕など無くなる。つまり、わざと不親切な答え方をして混乱させ、のが彼らの目的だった訳だ。卑劣な奴らめ!  だが、悔しがってもどうにもならない。どうせ、問い詰めても証拠が無いのだから、彼らはしらばっくれるだろう。正攻法で問題に挑むしかない!  そう決意したのだが、気力だけでどうにかなる程、甘い問題では無かった。  「⑤家庭で飼育されていますか?➝分からない   ⑥珍しい動物ですか?➝分からない」  またもや連続で「分からない」だ。どうやら他の連中も、俺を潰そうと考えているらしい。そして、学生の人数は俺を除くと六人。学生で質問できる奴は居なくなった。 「先生! 分かりました!」 「九条先生、俺も分かった!」  先程の質問に答えた奴等も、ようやく、自分の答えが分かったらしい。教壇の前に居る九条先生に答えを知らせに行く。先生は二人からそれぞれ答えを聞くと、満足そうに頷いた。 「よし! 二人共、正解!」  その言葉に緊迫した表情で答えを待っていた二人は一気に表情を緩め、満面の笑みを見せた。これで残りは俺一人だ。  気付くと、授業終了まで残り五分。そこで冒頭の場面だ。既に「レポートの罰」に怯えなくても良い連中の罵声や嘲笑を聞き、俺は焦っていた。  俺は考える。目を瞑り、思考の海へと沈む。今一度、質問の内容を思い浮かべる。 「①肉食?➝分からない  ②陸上で過ごす?➝分からない  ③人間より小さい?➝分からない  ④移動は四本足を使う?➝分からない  ⑤家庭で飼育可能?➝分からない  ⑥珍しい?➝分からない」  簡潔に整理した瞬間、頭の中で何かが閃いた。確証は無い。だが、もしかしたら、かもしれない。  「落ち着け」と心の中で自分に言い聞かせる。これはが重要だ。もはや、。  九条先生は言っていた。「質問は一人につき一つで同じ人には質問は出来ない」。そして、「質問はこの教室内に居る人でなければならない」。この条件に当てはまるのは……。 「九条先生」  俺は椅子から立ち上がり、先生に声を掛け、教室の前へ向かう。いきなり立ち上がった俺にビビり、周りの連中は水を打ったように静まり返る。先生は眼鏡越しに澄んだ目で、俺をじっと眺める。 「どうしたんだい? 答え、分かったの?」  先生の問いに俺は首を横に振る。そして、俺はした。 「西ですか?」  先生は三日月の様に口を開きニヤリと笑うと 「YES」 と答えた。  
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