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記念すべき1つ目の旅
「北西の方から、クアの記憶の気配がする。」
アトの一言で進路をレダに定め、コタンを出発した。
「記憶探し」の旅に加わって記念すべき1つ目の旅。
柄にもないが、日記をつけようと思う。毎日は勘弁願いたい。
なるべく三日坊主にならんように書く…ように努力する…はず。
俺が死んだらこの日記をお前たちに、渡してもらうよう頼んである。
ベリエ、モナ。そばにいないが、いつも想っている。
コタンの北にある山を登っている時だった。
ピクッとアトの肩が揺れる。どうしたのかと問う前に、走り出してしまった。
「アト?!おいっ!」
『もう、アトは…いつものクセが出たかな。』
トイロの頭に乗っていたニコが、やれやれと言い放つ。悪いクセ?
『しばらく待ってみようか。』
呆れ顔のトイロも、ため息まじりに言った。それしかないだろうな。
ひょっこりアトが戻ってきた。山菜採りに来ていて迷子になったらしい、14歳ぐらいの少女を抱いてる。
娘を見る父親のような顔をして、甲斐甲斐しく世話を焼き、
「村に送ってくる。先に進んでくれ。」
追いつけるのかと思ったが、本当に1日で追いついてきた。本気で走られたら追いつけねーわ、俺。
『クア様が、少女の姿をしていたからだと思うんだ。』
そういう事か…女神の影を見ていたのか。ニコの話では白い髪で、深い青色の瞳の少女だと聞く。
何か小さな袋を持って帰ってきていたから、見せてもらうと…キラリと光る指輪…ってこれ、婚約の指輪じゃねえか!
『「返して来なさい!!」』
トイロとハモる。押し付けられたようで。
気づけよ!あれだ、娘が一目惚れした的なヤツだろ。
アトはモテると思う。背は高いし、顔も整っている方で、道中に会った女どもが振り返って見る程。ふと寂しそうな顔をして、遠くを見ている事もある。女ってこうゆう影のある男前に弱いだろ?
とっつきにくい訳でもなく、話しかければ分け隔てなく返事もできるし、人の話しもしっかり聞く方だ。
弱い所といえば、こちらが恐縮するほどの気にしい&お人好し。それと、「少女に弱い」が加わる。ここは俺とトイロでなんとかフォローしないとな。
アトを理解したいなら、ここはおさえておけよ?
結局みんなで村へ行き、丁寧にお断りを入れた。両者に悪意はないんだもんな。しゅんとしてトボトボ歩くアト。
「まあ、今度気配を察知しても一人で行くなよ?」
「…分かった。すまない。」
気にしいのアト発動。すかさずニコのフォローが入る。
『今度見つけたら、ニコに言ってね?』
いいコンビだと思う。お互いに気遣っているのが言葉の端々で分かった。
ニコは全属性の精霊だ、しかも結構高位の。植物全般と通じていたり、動物と話しをしたり、一緒にいる者を透明にしたり、治療もする。他にも多彩な能力があるらしい。小さな男の子の声をしていて、女神に仕えていたそうだ。ニコの気配りは、そこから培ったものだと思う。女って気配りを求めるからな…
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