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3 匠海
消灯時間が過ぎ、周囲がすっかり静まり返っても、なかなか眠ることが出来なかった。
ベッドの上段に横たわる櫂も眠れないのだろう。さっきから寝床の軋む音が断続的に聞こえてくる。
お互いに何度か寝返りを打った頃、ふと小さな声で「起きてる?」と聞こえてきた。
うん、と答えると、少し間が空いてから「さっきのことだけど」と言葉が続いた。
「大丈夫じゃない、って言ったら、なぐさめてくれるつもりだった?」
そうだよ、と俺は即答した。
どういう顔で、どういう意図で、そんなことを尋ねてくるのかはわからなかった。
ただ、暗闇の中では何故か勇気を持って自分の感情に向き合えた。
「朝まで泣き言を訊くのでも、添い寝でも、なんでもしてやるよ」
沈黙が続いた。
眠ってしまったのだろうか。声をかけるべきか迷っていると、蚊の鳴くような声がかろうじて耳に届いた。
「……そっち行っていい?」
俺はドクドクと高鳴る胸を手のひらで押さえながら「いいよ」と答えた。
黒い影が上から下りてきて、自分のものとは異なる体温が布団の中に潜り込んできた。
真っ暗な空間をふたりで並んで見つめながら、どちらからともなく「話があるんだ」と言っていた。
狭いベッドの中で触れる櫂の上腕が、まるで火傷してしまうのではないかと錯覚するほどに、ひどく熱く感じられた。
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