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「……ねぇ、久々に美味しいコーヒーが飲みたいな」
「それは俺に淹れろと?」
「他に誰がいるのよ。いいでしょ、もう一年ぶりなんだから。可愛い奥さんの為に美味しいやつ淹れてよ」
「はいはい」
この身体に新しい生命が宿っていることに気づいて盛大に動揺したのが今から一年前のこと。
自分が母親になるなんて思ってもみなかったから、それはもう戸惑った。しかもこんなにも早くになるなんて。
もちろん、いつかはほしいと話してはいたけれど。
そう、あの頃は。
「はい。ミルクと砂糖二個。お前ほんと甘党だよな」
「ありがと」
それは最早コーヒーとは呼べないだろ、なんて言いながら自分は添加物ゼロの真っ黒なそれを口に含む。その横顔をチラと見ながら同じく、飴色になったそれを一気に半分ほど喉の奥に流し込んだ。
「さて、朝ごはんにしよっか」
カップの中身を空にして、私は何かを振り切るように声を上げた。
「メニューは?」
「トーストとスクランブルエッグなんてどうでしょう」
「いつもと一緒じゃん」
「それが一番でしょ?」
「ちぇー」
──きっと、露ほども『そんなこと』を思っていないだろう君に、私は思うことがあるのだけど。
「そうだ、珍しいもの売ってるの見つけたから買ってみたんだ」
「何だそれ……こけ、もも?」
「知らない? コケモモっていう実のジャムだよ」
「ふーん」
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