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真っ赤なそれがたっぷり入った小瓶をトン、と訝しむ君の目の前に置く。焼けたパンに塗って差し出せば、恐る恐る口に入れ、数秒して美味い!とその顔を綻ばせた。
それに私はにっこり笑う。
「良かった。絶対気に入ると思ったんだよね」
「ん。さすが俺の嫁だわ。なあ、そういえばお前、アレ行きたいって言ってただろ。ほおずき市。今日行く?」
ほら、とスマホの画面を見せてくる君に私はまた、にっこりと。
「本当? 行きたい!」
「そうと決まれば準備だな」
「待って、あの子のこと先に着替えさせてくるね」
「おー」
奥の部屋に行き、ベッドから赤ん坊を抱き上げる。
安らかな寝顔を浮かべ小さな手がぎゅっと握られているのを見て、窓辺に飾ったダリアの赤い花が咲いているのを見て、覚悟を決めた。
「七月入ったばっかりなのに外はやっぱ暑いな……」
「本当にね。あ、見て。あれなんか良さそう」
太陽の光をそのまま受け取ったような瑞々しいオレンジ色。
それがいくつも、房のように連なって並んでいる。
「どうぞ」
にこり、最上級の微笑みを携えて。
買った鉢植えからひとつもいで君の手の中に落とした。
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