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「……知りませんでした。俺、どちらかと言うとSだと思ってたんで」
溜息まじりに呟くと、田部さんが肩を組んできた。
「よしっ、宮城少年。飲みに行こう!」
「え、だって2次会――」
「ふたりだけの2次会よ、光栄だと思いたまえ」
強引なひとだな。
けど……驚いた。
いつもクールで、いかにも才女といった彼女にこんな一面があるなんて。
「よおし、今日はとことん飲んじゃうぞ!」
「はい、付き合います」
「お姉さんの奢りで、高いところ行っちゃう?」
「いえ、俺が出しますよ」
言って、俺からも肩を組み返す。
すると田部さんはびっくりしたように「は、なんで?」と目を丸くした。
「私の方が年上だし、一応上司だし、給料だって宮城くんより――」
「俺、男なんで」
きっぱりと言い切る。
「……最近の若者って、一周回ってこんな感じなの?」
「さあ、どうでしょう」
「なんか、意外……6年前はとんでもないクソガキが入社してきたと思ったのに」
サラリと酷い事をいう田部さんの頬が、心なしか赤いような気がした。
「失礼な人ですね、そうだ……俺、おっさんの後釜狙ってるんで、その時は田部さん、俺の秘書ですからね」
挑むように言って、不敵に笑ってみせる。
「少年……社長になるの?」
「はい、そのつもりです」
大きく頷いた俺は彼女と肩を組みなおす。
「だからここは、次期社長の俺に甘えてください」
田部さんはしばらく黙っていたけど、やがて「了解、社長さん」と小さく笑った。
「あ、見て!」
声と視線につられて空を見る。
雨上がりの薄暗い空。
そこには、見事な虹がかかっていた。
それはまるで、なにか楽しいことが起こる啓示のようで。
「止まない雨はない……ってことですね」
「うん、そうだね」
俺たちは一瞬だけ顔を見合わせ。
ゆっくりと歩きはじめた。
〜おしまい〜
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