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プロローグ
最後に見たのは、赤よりも赤い唇。
質の悪いスプラッター漫画を読んだから、こんな夢を見たのだと思った。
なのにそれは夢じゃなくて。
目が覚めたら、ぜんぶなくなった。
お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも。
夢も、未来も、感情さえも。
本当になにもかも。
ああ……だけど、ただひとつ。
たとえるなら夏の終わり。
朽ちた公園の片隅で、風になぶられる蝉の抜け殻みたいに。
カサカサの躰ひとつが、この世にとり残された。
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