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あさぎ園
* * *
児童養護施設の校庭には、ベンチとブランコ、それからトーテムポールがあった。
「皆さん、今日から家族になる麻子ちゃんよ」
ここ『あさぎ園』の園長だという中年女性が、張りのある声をあげる。
でも私は誰かと交わるつもりはないし、そもそも知らない人と家族にはなれない。
「麻子ちゃん、ご挨拶しようか」
「……」
「麻子ちゃん?」
「…………」
「じゃあ、先生から紹介しますね」
七倉麻子14歳。
中学2年生。
誕生日は5月24日で双子座。
美術部の副部長、緑化委員。
誰も興味がないであろう個人情報が垂れ流される間。
1分1秒でも早く解放されますように。
そう祈りながら、上履きの先を覆う赤に目を凝らした。
ビニール製の安っぽい色。
鮮血の赤には及びもしない。
比べて、あの日の赤は命の終わりにふさわしかった。
なのに、どうして私はこんな所で、晒し物になっているのだろう。
どうして私だけが生き残ってしまったのだろう。
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