崩壊

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崩壊

* * * なんとなく変だな。 そう思ったのは、中学に上がってすぐのころだった。 タクシー運転手をしていたお父さんが、あまり家に帰ってこなくなったのだ。三日に一度、週に一度、最後には月に数回の帰宅。それに比例して、お母さんの様子がおかしくなった。 もともと感情の起伏が激しいひとではあった。けれども、それに拍車がかかった。 テストの点数が悪かったといっては、ヒステリーを起こし、しまいにはお風呂の時間が長いだけでも、手を挙げる始末。 そして高校生になったお兄ちゃんが、彼女を家に連れて来た日、これはもう普通ではないと確信した。 「この淫乱女っ、今度うちの子に近づいたら殺してやるから!」 挨拶をしようとした彼女に対して、食器や花瓶を投げつけたのだ。 その日を境にお母さんは急速に狂っていく。 久しぶりに帰って来たお父さんは、その姿を目の当たりにし、心療内科に行こうと、提案してくれた。 けれど母さんは泣きわめき、暴れ、警察沙汰になった。お兄ちゃんを椅子で殴りつけ、学校で大問題になったこともある。 ついには、行政が動き『強制入院』が決まった。 「明日の朝、警察が迎えにくるから」 お父さんに告げられて、私はホッとしていた。 母親を騙して病院に隔離する心苦しさよりも、これでやっと安心して眠れる。 その思いが勝るくらいに、疲れ切っていたのだ。 それはみんな同じだったみたいで、その日は泥のように眠ってしまった。
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