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それが、いけなかったんだ。
「うわあ、やめろっっ、助けてくれ!!」
真夜中。
聞こえた絶叫に、ベッドから飛び起きた。部屋を出ると、階段を降りかけていたお兄ちゃんに「ここにいろ」と制された。
「ゆるさない、あの女もあんたも死ねばいい!」
1階の廊下でお母さんが喚いている。
「じっとしてろよ」
念を押したお兄ちゃんが、階下に足を踏み出したときだった。
「ぐあああああああああ!」
悲鳴とも呻きともつかない声が響いた。
転げ落ちるように階段を下りるお兄ちゃん。
その背中を見つめながら、私は立っているのがやっとだった。
「母さんやめて、父さんが死んじゃう!」
「和成、あんたまで私の邪魔をするの」
「麻子、救急車、警察でもいいから電話しろ!」
心臓がありえない速さで動いていた。
血の匂い、悲鳴、狂気――。
電話機は階段を降りてすぐのところにあるのに、足がすくんで動かない。
でも……行かなきゃ。
意を決して足を踏みしたときだった。
「来るなっ、逃げろ!」
お兄ちゃんが叫んで。
同時に視界が反転した。
私は背中で階段を滑り落ちてしまったのだ。
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