花火の涙

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8月15日、夕刻の長崎市内。 「んじゃ、出発すっかぁ!」 バチバチバチ! カーンカーンカーン 私たちは、今年の春に卒業した中学校の校庭を精霊船(しょうろうぶね)を押して歩く。 船に乗っているのは、3年生の時の担任だった大村先生である。理科の先生だった大村先生の船は、ビーカーやフラスコ等、理科に関係する装飾がされていた。 先生は昨年の夏に癌であることがわかったけれど、治療をしながら担任を続けてくれた。桜の花が散って新緑が増す5月中旬、先生の訃報が届いた。 「大輔くん、久しぶりだね」 「おぅ…」 そっけない返事で、学ランのポケットに手を入れて歩くのは喜々津 大輔(ききつ だいすけ)くん。 クラスのヤンキーグループの一人。 「大輔、お前ちゃんと休まず学校行ってんの?」 「お前こそ、行ってんのかよ」 ヤンキー達の話を後ろから聞きながら、私も友達と女子トークしながら歩く。 そんな私たちのところに爆竹が飛んできた。 「キャー!ちょっとちょっと!やめてよねー!!」 「おい!誰や!?」 「あはははは!ビビってやんの!船の後ろに花火乗せとっけん自由に取ってやっていいけん」 校庭を1周して、正門へ向かう途中、お盆にもかかわらず集まってくれた学校の先生たちが 「大村先生、ありがとう!」 と叫んで、爆竹を投げた。 バチバチバチバチ! カーンカーンカーン 「先生は、俺たちを中学から送り出してくれた。俺達も先生を送り出すぞ!」 「目指すは『西方極楽浄土』!!」 元学級委員が呼びかける。 楽しく、賑やかに…… そして、儚い……『精霊流し』がはじまる。
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