それは闇のように

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 Xは「いえ」と首を横に振り、それから、思い直したのか目を伏せて言う。 「死、という感覚は、ああいう感じなのかなと思いまして」 「さあ。それとも、聞いてみる? いつか会えるかもしれないわよ、あなたが殺してきたひとにも」  此岸と彼岸、この世とあの世、もしくは、いくつも存在し得るといわれる平行世界。  それが『異界』なのだとするならば、「こちらの世界で失われたもの」と出会う可能性だって零ではないのではないか、というのが我々の仮説だ。  しかし、Xは私をじっと見上げて、それからゆるゆると首を振った。 「あまり、考えたくはないですね」 「それは、どういう意味で?」 「死の向こう側は無でないと、わざわざ殺した意味がなくなってしまいますから」  ぽつり、と。落とした言葉は冷え冷えとしていて、私の背筋までぞくりとする。  Xからは殺人に対する罪悪感が完全に欠け落ちている、というのが周囲の評価であり、私もその評価は間違ってはいないのだろうと思う。だから、どれだけ私に従順であろうともその手首には今もなお手錠が嵌められているし、いつか必ず死という名の刑が下される。  この『異界』への旅とて、死と隣り合わせの非人道な実験だ。最初から私はXにそう言い聞かせている。  それを理解していながら、今日もXはうっすらと微笑む。不器用に。 「そうです。死とは、あの暗闇の中のように、何もかもが散り散りになって、闇に溶けて二度と浮かび上がれないようであってほしいなと。思ったんですよ」  その言葉は、どこか憧れのような感情を抱いているようにも聞こえて。  私は目を細めてXを見やる。 「あなたに、そんな安らかな終わりが来ると思う?」  私の問いかけに、Xはこくん、と首を傾げて。 「まさか」  と、歪んだ笑みで答えた。
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