それは闇のように

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 びくり、びくりと、打ちあげられた魚のように、不随意にXの体が跳ね続ける。  ……これは、まずいかもしれない。  横たわったままのXの唇から漏れ出すのは、低い呻き。それはすぐに咆哮に変わった。画面は依然暗く、音声も聞こえないまま。だが、それを「『異界』に潜っているXが感じ続けている」のだとしたら。  スタッフたちが顔を見合わせ、そして私を見る。Xを引き戻すかどうかは私の判断一つだ。今日の『潜航』は極めて短時間になってしまったが、この状態を続けても何も情報は得られないと判断し、命令を下す。 「終了よ。引き上げて」  私の言葉はすぐに行動へと変換される。Xの意識は目には見えない『異界』からこちら側へ、これもまた目には見えない命綱によって引き上げられる。この命綱は肉体と意識を結びつけているもので、まだXが「生きている」証左でもある。 「引き上げを完了」 「意識体、肉体への帰還を確認」  スタッフの声と同時にXはもう一度びくりと震えて、それからゆっくりと閉じていた瞼を開き、眩しそうに目を細めてみせた。 「気分はどう?」  私の問いに、Xは応える代わりに目を瞬いてみせた。先ほどまで鬼気迫る表情で叫んでいたとは思えない、穏やかで凪いだ顔をしていた。  そして、天井辺りを彷徨っていたXの目の焦点が私に合わせられる。どうも、何か言いたげにこちらを見上げるXだったが、その唇は開かない。そこまで来て、やっと「私の許可」を待っているのだと気づいた。Xはこのプロジェクトにおいて極めて従順なサンプルだ。従順すぎるほどに。 「発言を許可する。報告しなさい」  はい、と。掠れた声が漏れた。
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