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寝台の上に横たわるXの体がびくりと跳ねる。
「Xの生体反応は?」
問いかけに対する、医療スタッフの「問題ない」という答えに安堵する。ここで死なれてもさしたる問題はないとはいえ、言い訳には苦労するし、Xと同等以上の良質なサンプルを選出するのも面倒だ。
Xの頭部に繋げたコードはディスプレイに伸びており、Xが「見ている」はずの光景が映し出されている――はずなのだが、映し出されている風景はどこまでも暗闇に包まれていて、光ひとつ見えない。スピーカーから音声も届いてこない。
接続異常だろうか、とスタッフが首を傾げるが、全く同じ条件下で前回は『異界』が確かに映し出されていたのだ、単なる異常とも考えづらい。
故に私はスタッフたちに命じる。
「続けなさい」
――『異界』。
それはその名の通り「ここではないいずこか」を指す。此岸と彼岸、この世とあの世、もしくは、いくつも存在し得るといわれる平行世界。それが「発見」されたのはそう最近のことではない。昔から「神隠し」と呼ばれる現象は存在していたし、それが『異界』への入り口をくぐる行為だということは一部の人間の間では常識とされていた。
だが、『異界』が我々を招くことはあれど、『異界』に対してこちらからアプローチする手段は長らく謎に包まれていた。
そのアプローチを、ごく限定的ながらも可能としたのが我々のプロジェクトだ。人間の意識をこの世界に近しい『異界』と接続し、その中に『潜航』する技術を手にした我々は、『異界』の探査を開始した。
もちろん『異界』では何が起こるかわからない。接続した瞬間に意識が消し飛ばされて脳死状態になることも十二分に考えられる。故に、接続者のサンプルとして秘密裏に選ばれたのは、死刑が確定した囚人Xであった。
彼は詳細をほとんど聞くこともなく、我々のプロジェクトへの参加を承諾した。その心理は私にはわからないが、Xは今のところ問題なく『異界』の探査をこなしている。
しかし――。
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