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ここは異世界?いえ、人生初の海外です
そして始まった、人生初の海外生活。俺は、何故か金髪イケメンとコンドミニアムで同居していた。正確には、ルームシェアだ。
同居人の名前はリック。本名はリチャードというらしい。ファミリーネームに至っては、長くて何度聞いても覚えられない。彼はアメリカ本社のチームメンバーで、俺のオンボーディング・バディ、つまるところ新しい環境に慣れるまでのお世話係らしい。
機内で一睡もできず、へろへろで到着したアメリカの地方都市。俺は空港のターミナルを出ると同時に、「RYOTA」と馬鹿デカいサインを掲げた金髪イケメン、リックに捕まった。
「な、なナイス トゥー ミーチュー」
息も絶えだえに挨拶すると、イケメンに素晴らしく爽やかな笑顔を返され、快活に何かまくしたてられた後、がっしりハグされた。欧米の洗礼、キタよこれ!
リックは長身で、日本人平均ギリの俺より頭ひとつ以上大きい。たぶん、185cmくらいあるかな。こっちでは何フィートっていうんだろう。身体も鍛えているみたいで、しっかり胸板も厚いし、シャツから覗く腕も太く男らしかった。短めの金髪に、薄い青い目。彫刻みたいに端正な顔で、笑顔が眩しかった。
ちなみに俺は、ザ・日本人。小さい頃からずっとインドア派だから、身体もひょろい。顔も平凡、目も一重のどんぐり眼だし、鼻も低い。イケメンと並べば、簡単に霞んで風で飛ばされるくらいに存在感ない。
自分でもよく分かってるから、別に卑屈にならない。ただリックのイケメンぶりに、ぼうっと見惚れただけだ。
俺はそのまま出口に横付けしていた車に乗せられ、リックの友達(のちにコイツも同僚と判明)の運転で、会社が用意した仮の住居に連れて行かれた。
仮の住居は、長期滞在用ホテルを会社が借り上げたものだった。広めの寝室にデスクと、隣合わせのリビングスペースには簡易キッチン、ユニットバスが付いていた。ダウンタウンから少し外れるが、会社までバスもあるし、歩いて通えないこともない。
電車通勤1時間、東京の狭くて古い元アパートより、よっぽど広いし住み心地も良さそう。
うんうん満足げに俺が頷いていると、一緒に着いてきたリックが怖い顔をしていた。男らしい眉をぎゅっと寄せ、切れ長の青い目をぐっと狭めている。おお、イケメンの顰めっ面、威力半端ねぇ。
『なぁ、リョータはここで満足か?』
というようなことを真顔で聞かれたので、俺の雰囲気英語で懸命に答える。
「ノー プロブレム。ディス ルーム イズ
ナイス。ベター ダン マイ トーキョー ハウス」
つっ、伝わったか?3か月間のラジオ英会話の努力!!
リックの顔が、ますます険しくなる。俺は焦って、大きく身振り手振りを加えて、再度同じことを繰り返した。
『リョータ、行こう』
リックはきっぱり言うと、俺の特大スーツケースを軽々と持ち上げ歩き出した。
なっ、何か問題でもあるのか?どこに行くんだ??キャサリン先生、俺に英語の力を分けてくれー!!
パニクった俺は、毎朝6:30amの心のオアシス、ラジオ英会話の女性講師に助けを求めた。
『大丈夫、リョータ。心配しないで』
リックは俺の顔を覗きこみ、落ち着かせるように微笑んだ。そしてぐいぐい俺の背を押し、ルームキーをフロントに返すと、俺とスーツケースを再び車に押し込んでホテルを後にしたのだった。
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