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異世界転移、もとい海外赴任の心得
俺が連れて来られたリックのコンドミニアムは、ダウンタウンの中でもお洒落な地区にあった。
すぐ外に、流行ってそうなスポーツバーやレストランが並ぶ。海沿いで遊歩道もあり、朝夕は犬の散歩やジョギングする人が行き交う。会社へも、徒歩数ブロックだ。
訳が分からず混乱する俺に、リックはゆっくり丁寧に説明してくれた。曰く、初めての国で暮らす俺を、最大限面倒みたい。狭いホテル住まいは不便だし、心細いだろうから、まずは生活に慣れるまでルームシェアをしないか、という提案だった。
俺は内心震え上がっていた。確かに、初めての海外生活、俺のやわなハートは不安で一杯だ。アメリカに知り合いもいないし、頼みの綱は人事部が持たせてくれた「海外生活のしおり」という薄い冊子のみ。細々した相談は、本社の人事でもサポートすると言われたが、英語でのやりとりになるだろう。ここに着くまで、車の窓からアジア人も割と見かけたが、街に日本人はいるんだろうか。ヤバい、不安だ。怖すぎる。。
飛行機で全く寝れなかった俺は、時差ぼけも重なって朦朧としていた。疲れ過ぎて、感情のコントロールが効かない。思わず涙が溢れそうになり、慌てて目を擦った。初対面の同僚の前で、なんて情けない。
リックは優しい笑顔を浮かべて、そっと肩を抱いてくれた。
『リョータは何も心配するな。ここで少しずつ、新しい生活に慣れていけばいい。困った時は俺を頼って』
『ううっ・・・リッグ、ありがどう・・・』
『ははっ。まあリョータもリックと四六時中一緒にいりゃ、早く言葉を覚えるんじゃないか』
・・・忘れてたよ、お前。
デクスターと名乗ったリックの友人が、横槍を入れてきた。どっかりソファに座り、一連のやりとりを聞いて、意地悪そうにニヤニヤ笑っている。早口ではっきりと理解できなかったが、なんだか馬鹿されてることだけは分かる。言い返せないから、キッと睨んでやった。
日本人を舐めんな。英語話せなくても、空気読む力は半端ねぇんだぞ。
『行こう、リョータ。ゲストルームに案内する。部屋にシャワーも付いているから、自由に使ってくれ』
疲れ切った俺は部屋に入ると、体を洗うのもそこそこにダブルベッドにダイブし、あっさり意識を手放した。
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