3人が本棚に入れています
本棚に追加
お昼休み、向かいのビルのイタリアンで日替わりランチを注文した後、すかさず彼女はそう言った。飯田さんは私より三年先輩にあたる。私が入社したことで、お茶汲み係を卒業した人だ。私の勤める佐木インテリアは、企業の内装やレイアウトをプロデュースしている。現社長は二代目。社員は中途採用が多い。飯田さんも元は介護用品を扱う会社に勤めていたらしい。彼女の社歴は五年だが、年齢は私より六歳上だ。管理部は会計部門と庶務部門に分かれていて、庶務部門に在籍するのは三名。飯田さんと、私と、先代社長の愛人だったと噂されている、部門長の白木さん。白木さんのメイクについて、飯田さんは壁画と評す。エジプトの古代遺跡を想起するのだという。
私たちのテーブルに、ベーコンとトマトのリゾットが運ばれてきた。湯気に乗って鼻孔に届くブイヨンの香り、化学調味料だとすぐにわかった。この店にはもう十回は来ていると思う。日替わりランチは千円。だから私は、この店に少なくとも一万円支払ったことになる。あの会社で一日働いても、そんなに稼ぐことは出来ない。
オフィスに戻ると、白木さんが入れ替わりで食事に出かけて行った。会社の代表電話が庶務部門の外線となっているから、電話番が必要なのだ。私のデスクには白木さんからのメモが残されていた。
『会議室の紙コップ、片付けておきました。プロジェクターをしまうのはお願いします。』
飯田さんが横から覗き込んできて、
「なんかやな感じ~」
と顔を顰めて言った。そして彼女は歯磨きセットを手に、化粧室へと行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!