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大学を二年で中退した後、私はおよそ二年間、実家の近くの書店でアルバイトをしていた。全国でその名を知られた書店の、ショッピングモールの中にある店舗。毎朝大量の雑誌が納品される。開店前に二時間ほどかけて、雑誌と付録を組み合わせ、店頭に陳列する。すべて並べ終わってから[本日発売]という札をつけて回る。その後は店内清掃。まもなく開店の時間を迎えると告げるアナウンスが響き、アルバイトたちはいっそう忙しなく動く。一般に流通しない教育学の専門誌が、月に一度、定期購読の客の為に一冊だけ配本されていたのだが、まだ働き始めて間もない頃、私はそれを誤って売り場に並べてしまい、店長に手招きされバックヤードに連れていかれた。
「定期購読の予約票、あとで目を通しておいてね。全部だよ。店の信用に関わるから、今度から気を付けて。定期のタイトル、覚えられなさそうだったら、遅番のシフトにしてもいいけど」
覚えます、と私は即座に答えた。遅番になると、閉店となる午後十時を過ぎるまで帰れない。それはできれば避けたいことだった。
兄はもう実家を出ていて、父と母と私の三人で暮らしていた。父は当時五十六才。単身赴任が長かった父と共に暮らすのは八才の時以来だった。しかし、また同じ家で暮らすようになったとはいえ、顔を合わせることはほとんどなく、朝は七時台の電車で会社に向かい、夜は接待、会食、懇親会などが毎日続いた。母が作ったものを父は食べない。休日でさえ、ゴルフだのジムだのと言って出かけてしまう。玄関で、母はよく父のゴルフバッグを拭いていた。父の靴を磨くのも母だ。
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