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晩ご飯を母と一緒に食べながら、アルバイト先での出来事を私はよく話していた。料理が好きな母に料理雑誌の定期購読を勧めてみたこともある。だが母はいらないと言った。
「毎年、同じ時期に同じような料理が載るだけなのよ。結婚して二、三年は毎月買ってたけど、それに気づいてやめちゃったわ」
母はそれらの雑誌をずっと取っておいていた。もう開くこともないだろうに、どういう訳か捨てようとしなかった。ネットでレシピを検索することも母はしない。テレビを見ていても、グルメ番組が始まるとチャンネルを変えてしまう。
専業主婦歴二十年越え。どんな手の込んだ料理も手作りしてきた母にとって、食を司ることは聖域なのだと私は思っていた。そんな母が作るものを食べようとしない父のことを、私は少し軽蔑していた。私だけは、母の作るご飯を毎日食べなくては。どんなに丁寧に出汁を取っているか、どんなにあざやかな手つきで魚を卸しているか、私は知っているのだから。
三月。うちの庭の小さな梅の木は満開だった。何気なくSNSを開いたら、大学で一緒だった子たちの卒業式の写真を見つけてしまった。あの子たちと話すのは嫌いじゃなかった。でも、好きでもなかった。テニスサークルに誘われて入ったけれど、テニスコートに行くのも、その後の打ち上げと称した食事会にも魅力を感じなかった。
早くうちに帰って母の手料理を食べたい。そしてゆっくりお風呂に浸かり、深夜のドラマを見たい。そんなことを考えていたから、違う大学に通う男の子との連絡先交換もまるっきり嬉しくなく、サークルを辞めてすぐに削除した。
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