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地下室
レンガのような壁に囲まれた地下室には一切窓がなく、明かりが入る余地はまったくない。食事は扉に設けられた郵便受けのような四角い穴から、一定の間隔で差し入れられる。その小さな扉がひらく瞬間の、外から差し込む薄い光だけが、私が見ることのできる光のすべてだった。
それでもずっとここで過ごしているので、すっかり目が慣れてしまい、私には部屋の大まかな様子は見えていた。部屋の広さは、対角線上に歩いてちょうど7歩。壁際には固いベッドがあり、部屋の隅には小さな手洗い用のシンクと便器がある。シンクは小さな物だったが洗面器とタオルもあるので、濡れタオルにして身体を拭いたりと、一応の清潔を保つことはできた。要するにここは、テレビなどで見る刑務所の独房と同じような作りになっているようだ。
私がここに入れられたのは、12歳の時だった。スクールバスを降りて家に向かう途中で、痩せっぽちだった私は猫の子のように、後ろから誰かにひょいと抱きかかえられ何かをかがされると意識が遠のき、気が付いたらこの家にいたというわけだ。
それからどれぐらいの時間がたったのだろう。光のまったくない闇の世界に暮らしている私には、今日の日付どころか昼夜の区別すらまったく付かなくなっていた。
基本的にはこの真っ暗闇の中でいつも一人で過ごしているのだが、時おり誰か、大柄ではあったがそれは女性のようだった、が懐中電灯とピストル、と女は言っていた、を持って下りて来て、私に壁に両手をつくよう命令するとゴムでできたマスクのようなものを頭からアゴ先まですっぽりかぶせ、両手を手錠か何かで後ろに固定し、私の腕をつかんで支えながら階段を登らせて、別の場所へと連れていく。
厚いマスクは鼻の部分をのぞいて顔にぴったりと張り付き目も覆われてしまうため、まわりを見ることは不可能だ。鼻から呼吸はできるが、口も塞がれており、くぐもった声しか出せない。
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