救出

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 お腹も満ちてきれいなパジャマでふかふかと気持ちのよいベッドに寝かされると、私は安心してすぐに眠ってしまったようだ。気が付いたら朝だった。  朝。そう、窓から入る光がここにはある。長いあいだ人と話さず光も見ずに暮らしてきた私には、すべてが文字通りまぶしすぎてめまいがした。それでも昨日よりは、ずいぶん気持ちが落ち着いている気がした。 「おはよう、ジェシカ。ご機嫌いかが?」  昨日の女の人が部屋に入ってきた。やさしい微笑み。ママの笑顔を思い出す。あたまの中がパニックになる。 「ママ、ママ、ママは? ママ! 私はここよ!」  女の人は、叫びながらベッドから飛び出そうとする私を抱き留め、頭をやさしく撫でながら言った。 「ジェシカ、ジェシカ。ねえ、落ち着いて聞いてほしいの。あなたのママは……、ママはね、亡くなったのよ。ごめんね、ジェシカ。ごめんね」  なくなった? 私は一瞬意味がわからなかった。なくなった? ママが? え、死んだってこと? ううん、そんなはずない。何言ってるの。誰か違う人と間違えてるんじゃないの。  私はそういう事を言いたかったのだが、やっぱりうまく言葉がでてこない。私はただ「ママ! ママ!」と叫びながら、女の人にしがみつくことしかできなかった。  そうだ、これは夢なんだ。私はまだ、あの暗闇の部屋にいて、夢を見ているんだ。  私はそんな風に思い、まるで現実味を感じられないまま、警察署に連れて行かれいろいろな事を聞かれた。でもあたまの中で考えることがうまく言葉にできなくて、相手の言う事は分かっているのに答えることができずもどかしい思いをした。それでも大人たちはみんな優しくて、私は安心できた。  警察の話によると、私があの部屋に連れていかれてから5年が経ったらしい。12歳だった私は、知らない間に5回のバースデーを通り過ぎていた。  ママのことを聞くのは何だか怖いのでやめた。だってママが死ぬわけないのに、そんな風に言われるのはやっぱり怖いから。それにママのことをあんまり深く考えると、なんだか良くないことが起こる気がして……。  パパには、私は会ったことがない。だから私はママといつも2人で暮らしてきた。ママはお仕事大変でいつも疲れているようだったけど、私にはいつも優しい笑顔を向けてくれた。私はそんなママのことが大好きだった。お金はあまりない家だったけれど、いつも2人で仲良く暮らしてきたんだから。だがそう考えた刹那、悪魔のように邪悪で引きつった女の顔が、私のあたまの中を通り過ぎた。それはほんの一瞬の出来事だったが、しかも誰だかわからなかったが、私の全身はガタガタと震えだした。目の前で私に話をしていた警察の人がおどろいて、 「ジェシカ、どうしたんだい、ひどく震えて。気分でも悪くなったのかい?」  心配そうに私の顔をのぞきこむ。私はハッとして、あたまの中のイメージをふるい落とすと小さな声で「私は大丈夫です」と答えた。
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