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驚いた。
あたしには、料理の才能がなかったらしい。
卵を割ったらカラが入った。
「ふえーん。おかあさーん……」
主婦歴二十年のプロに泣きついてみたら、
「大丈夫、カラなんてよければいいのよ」とあきれ顔だ。
「そんで、あとはどうすれば」
「砂糖、塩、しょうゆを入れて菜箸で混ぜる。ああ、混ぜすぎないでね!」
卵液を、四角いフライパンに半分ほど流し込む。
ふわりと漂う甘い香り。
「どうやって巻いたらいいの?」
「菜箸で押さえて。そうそう……」
残り半分をくわえる。
「うわっ。くずれた」
一応完成。
……焦げたし、なんだかひしゃげて変な形になったけど。
ウーム。卵焼きってむずかしい?
再チャレンジだ。もう一度、あたしは同じ工程を繰り返す。
うまくいかない。もう一度。
「みそら。いいの? そろそろ学校行かなくて」
「うぎゃー! 遅刻だ!」
あたしは大騒ぎしながら、ちゃちゃっと髪をおだんごにして、歯みがいて、お弁当箱をカバンに突っ込んだ……。
*
チャイムが鳴って、数学の授業が始まっても、あたしはうわのそらだった。
どうしよう。
やっぱり……こんなお弁当じゃ、ダメだよね。
卵焼きしか入ってないし。恥ずかしいもん。
こっそりケータイを取り出して、あたしはチャカチャカと文字を打った。
『ゴメン、今日は時間なくて、
お弁当作れなかった。購買でいい?』
そ、送信!
『あー、いいよ。もちろん』
すぐに返事が来た。
調子づいたあたしの親指が文字を刻む。
『今、そっち授業なに?』
『こぶん』
古文かあ……。
あたしは引き出しから、古文の教科書を取り出して、そっとページをめくってみた。
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