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タチバナは、きれいな箸遣いで、卵焼きを口に運んだ。
モグモグと咀嚼する、そのくちびると、のどの動きを、あたしは息をつめて見守った。
「あのう。どうでしょうか……」
「うーん……カラがジャリジャリする」
「えっ?! カラはとったはずなのに!」
「あと砂糖入れすぎ? 甘ったるい」
「ううっ……」
「つうかさあ、さっきからずっと見られてるんだけど。なにあの人」
タチバナがちらっと視線を送ると、山吹がフラフラ近づいてきた。
「タチバナ。お前さあ。
ふつう褒めるべ。そういう時って。
嘘でもおいしいよ、とか言うもんだべ?」
「うん? おいしいよ? 昨日の卵焼きより、もっとおいしい」
「い、いいよ、別に。嘘つかなくたって……」
あたしがへらへら手を振ると、タチバナはしれっと澄ました顔で言った。
「嘘じゃないよ。幸せっぽい味がする。甘ったるくて」
「……は。恥ずかしい……」
と顔を覆ったのは、あたしじゃなくて山吹だ。
タチバナは手で山吹をシッシと追い払う仕草をして言った。
「もう、どっか行ったらどうだい、山吹くん。
突っ立ってても、卵焼きはあげないよ」
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