部活

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新聞紙を貼ったベニヤの上に、夜のネオン街を描く。 絵具で星を散りばめて、ニセモノの夜景を作っていく。 「小峰(こみね)ー、倉庫に、このパネルしまってきて。 カギ、部長から預かったから」 山吹が、あたしの手のひらの上に、チャリンとカギを落とした。 ここでいう倉庫ってのは、体育館裏にある、プレハブの部室棟のこと。 視聴覚室に色々置いておくと邪魔だから、面倒だけど、備品はそこにしまうことになっているのだ。 「俺、こっち片づけとくからさ。タチバナとふたりで運んだら?」 「えっ……ふたりで?」 「うん」 山吹がチェシャ猫のようにニヤニヤした。 夜景を描いたパネルは、チビのあたしの背丈以上ある。 それをタチバナとふたりで抱えて、慎重に階段を降りていく。 「……小峰、転げ落ちないでよ」 タチバナにそう言われて、「落ちないもん」あたしはブスッとして答えた。 体育館の脇を通ると、運動部の練習の掛け声や、ボールの弾む音が聞こえてきた。 砂利道には、いちょうの葉っぱが降り積もって、フカフカしている。 長屋づくりの部室棟の、右隣は「バドミントン部」で、左隣は「文芸部」だ。 うちの部と同じように、倉庫として使っているのか、シーンとして、中から人の気配は感じられない。 カチャリ。 カギを開けて中に入る。 薄暗い部屋の中は、木材やら小道具やらの備品の山だ。 なんとか場所を確保して、あたしとタチバナは、夜景のパネルを立てかけた。 ――これでよし。戻ろう。 顔をあげると、タチバナが、ドアを背にして立っている。 ……そこにいられると、出られないんだけどな……。 「……今日、全然しゃべらないね」 タチバナが、口を開いた。 「もしかして、なんか怒ってんの。それとも単に照れてるだけ?」 「……あ、えっと!」 あたしは、ちょっと混乱した。あたし、怒ってるんだっけ。 でも確かに照れてもいるよなあ。
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